注目が高まっている採用マーケティングのポイント

インターネット上での採用活動や求職活動が浸透する中、採用領域においてもマーケティングの概念を取り入れていく動きが広がっています。採用マーケティングを進める体制と準備は万全でしょうか?

ここでは、採用マーケティングの概要や注目されている背景、メリットなどを解説します。採用マーケティングの全体像を把握し、基本ポイント押さえていきましょう。

採用マーケティングとは?

採用マーケティングとは、消費者を対象に進めるマーケティングの概念や手法を、対求職者にもあてはめながら採用活動を進めていくことです。

人材確保の難易度が上がっています。便利なインターネットがあるとは言え、IT技術の進化が採用手法や活用ツールを多様化させています。「あらゆる施策を講じても、採用成果に結びつかないのはなぜだろう?」 このような疑問をお持ちの担当者の方も多いのではないでしょうか。

企業の事業運営における、消費者に対するマーケティング活動は、消費者ニーズや動向を的確に掴み、営業活動や生産活動の効率性を高める役割を持ちます。採用マーケティングは、求職者のニーズや動向、反応に合わせて、採用活動の効率を上げるために行うものです。

消費者の購買活動にインターネット活用が浸透し、Webマーケティングの重要性が増しました。

求職活動がインターネット上で行われるのであれば、採用を行う企業もインターネットで対応しなければなりません。そこに、採用マーケティングの視点が欠かせないものとなってきているようです。

採用マーケティングが注目されている理由

採用マーケティングが注目される背景には、以下のような要素があると考えられます。

  1. 人材不足で採用市場における人材獲得競争が激化している
  2. 求職者の価値観が多様化している

これらの状況に対して、どのようなことが必要になるかというと、

  1. に対しては、潜在層にもアプローチする必要性
  2. に対しては、多様な価値観、それぞれに対応する情報発信

マーケティングとどのようにつながるのかをもう少し詳しく見ていきましょう。

背景1:採用市場の激化

日本は生産年齢層の人口が減少しており、とくに若手の獲得競争が激しくなっています。求職者に選ばれない企業は、人材不足に陥ってしまうのです。求職活動を意欲的に進めている層だけでは、必要人員数を確保することが難しくなっています。

世の中には、採用市場の表に出てきにくい、一定数の潜在層がいます。

売り手市場の環境下では、優秀な人材ほど求職活動を必要としないため、顕在化することは少ない傾向があります。企業で活躍している優秀人材ほど、現職にやりがいを感じていたり、企業の手厚い待遇に守られていたりと、エンゲージメントも強靭です。結婚や出産をきっかけに仕事を辞めた主婦層の中にも、経験豊富な人材はたくさんいます。知名度の低い企業にとっては、自社の存在を知らない潜在層が広い範囲に存在していると考えられます。

潜在層は、たとえ、今でなかったとしても、将来的には転職を考える可能性があります。現代の採用では、中長期の視点を持って、この潜在層も人材獲得の対象に入れる必要性が高まっています。

そこで必要になってくるのがマーケティングの視点です。

  • 今、転職を考えていない層と、どのようにすれば接点が持てるのか
  • 自社を知らない人に、どのようにして自社情報に目を留めてもらうのか
  • 転職を考える時期まで、どのようにすればつながり続けていくのか

潜在層までターゲットに含めて、情報やメッセージを届ける広報活動が必要です。

背景2:求職者の価値観の多様化

求職者を含め、労働者の価値観が多様化してきています。仕事に対する価値観はもとより、働き方、理想の評価のされ方、活躍できる分野や地域、将来的なキャリアの展望、社会への貢献意欲など、個別に理想を描くことができ、かつ実現しやすい環境が整ってきています。

たとえば、正社員、完全週休2日制、朝9時から午後18時までの勤務というのが、必ずしも好条件とは受け止められないのも、現代社会の価値観の特徴です。

新しい働き方や将来的な自分のキャリアに関心を持つ人たちに、有益な情報を発信することで、自社情報や求人情報に引き込んでいく流れを作り出す必要性が高まっています。

  • 「この会社で働きたい」と感じてもらうにはどのような情報が有効なのか
  • どのような情報が潜在層を含めたターゲット層に役立つのか
  • 他社との差別化を図るためには、どのような情報発信が必要なのか
  • 継続的に興味を持ち続けてもらうには、どうすべきなのか
  • 入社意欲を醸成するための流れをどのように構築するのか

これらの点を、インターネット上で満たしながら、採用につなげていくことがポイントになるのです。

採用マーケティング手法

ここで、採用マーケティングに大きく貢献する2つのフレームワークをご紹介します。「カスタマージャーニー」と「ファネル分析」は、消費者に対するマーケティングでもよく活用されているものです。

カスタマージャーニー

カスタマージャーニーとは、消費者の購買活動で起こす行動や思考、感情の一連を示すものです。消費者が辿るプロセスを把握していくことで、アプローチの確度が上がります。それによって、うまく購買アクションに誘導しやすくなるのです。

なぜ、マーケティングにカスタマージャーニーが必要になったかというと、消費者の購入手段が多様化したからです。一人ひとりが異なる経路を辿って、購買に辿り着いています。自社のA商品について、どのような経路で、どのような検討手段を経て購入に至っているかを把握することが、広告媒体、公開頻度やタイミング、提供する内容を検討するときの有効な材料となるのです。

では、カスタマージャーニーがなぜ、採用にも応用できるのでしょうか。

それは、求職者の求職活動の手段も多様化しているからです。

全員が同じではないということになりますが、知る必要があるのは、ターゲット人材がどのような方法や手段で入社に行き着いているのかということです。業界や職種などある特定のカテゴリで括ると、それらの求人に反応する人、関心を持っている人、目指している人には一定の傾向が見えてきます。

求職者ジャーニーを把握することで、消費者のときと同じく、アプローチの確度を上げることができます。それによって、入社意欲を喚起するところまで導きやすくなるのです。どこで迷いが生じるのか、ここで必要となるのはどんな情報なのかを見極めて、そつなく解決策を届けることを念頭に置くことがポイントになります。

採用にカスタマージャーニーを活用するメリットとしては、採用コストの削減効果が挙げられます。無駄のない的確なアプローチができるからです。的確なアプローチができれば、途中離脱の可能性も下がります。入社に至った場合の早期離職も減らせるでしょう。相互理解に必要な情報をしっかり届けることができるからです。相互理解が深まれば、本当に欲しい人材が集まり、その獲得につながります。

ファネル分析

マーケティングでは、ファネルという言葉が使われます。消費者の購買活動上の基本的なステップを表したものです。

幅広い層から並べると、「認知 → 興味・関心 → 比較・検討 → 【購入や申込み】 → リピート」となります。

図式化すると、逆三角形のろ過器(ファネル)のような形になるのが名前の由来です。

商品やサービスを知った人すべてが、購入や利用に行き着くとは限りません。それぞれのきっかけとなる行動・思考・感情の動きによって、購買に近づいていく人もいます。他の類似商品と比較する人もいます。この間に、必ず離脱が起きるのです。

その離脱ポイントで、消費者にプラスとなるアプローチをすれば、離脱を防ぐことも可能でしょう。つまり、購入や申込みまで到達する人を増やせるということです。これらを見抜いて的確に対処していくために活用されるのが「ファネル分析」なのです。

一般的な採用のプロセスをファネルにあてはめてみると、「認知 → 興味 → 応募 → 選考 → 内定 → 【入社】 → 定着」となります。
確かにプロセスが進むに連れて対象者の数は減っていきますよね。

採用の場合の減っていく理由は、自社が選考によって絞り込んでいくから…だけではありません。残したい優秀な人材の途中離脱や内定辞退も発生してしまうのです。売り手市場の昨今、この点にお悩みの担当者様は少なくはないでしょう。

ファネル分析は、企業が意図しない離脱や辞退の状況を、フェーズごとに把握して、その要因を取り除くために行います。見直すことで改善する必要のあるポイントを明らかにできる方法なのです。ファネル分析を行うことで、欲しい人材の離脱や辞退を回避できるようになります。

採用マーケティングのメリット

採用マーケティングに取り組むことで、どのようなメリットが見込めるかについて解説します。主な2つのメリットを挙げますが、いずれも現代企業の採用課題を解決する要素です。

安定して人材を確保できる

採用マーケティングには、多様な取り組みに対する一定の工数が必要とされるため、スムーズな流れができあがるまでには時間を要するかもしれません。

しかし、適切な採用マーケティングを回せるということは、採用プロセスを最適化できるということでもあります。長期的に見ると、採用活動がしやすい環境が整うのです。つまり、市場から適切な人材を調達しやすい状況を作り出すことができます。求職者目線に立ち、適切なタイミングで、必要な情報を届けていくからです。採用マーケティングに取り組んでいくことで、安定的に欲しい人材を確保できるようになります。

低コストでできる

採用マーケティングでは、あらゆるコンテンツを求職者に届けていきます。発信するコンテンツは、自社の資産として積み上げていくことができます。もちろん、タイムリーで継続的なアップデートも大切ですが、基本情報は毎回の採用で使っていくことができます。蓄積した情報量が自社の信頼性を高め、採用力の強化に貢献する要素となります。

基盤ができあがるまでは、費用、労力、時間もかかり、大変かもしれません。しかし、長期的に見れば、高い費用対効果が見込めるのです。

前の項目で、採用プロセスを最適化できることをお伝えしました。採用業務の効率化、獲得する人材の質の確保、人材の定着率向上が期待できるのです。過剰なコスト、結果的に無駄になってしまうコスト、早期離職によるダブルコストも抑えることができます。全体的な採用コストの削減効果も大きいと考えます。

採用マーケティングの4つのファネル

最後に、採用マーケティングの一連を示す、主なファネルをまとめます。採用分野では、各ファネルのことをフェーズと表現されることも多いです。フェーズが進むごとに人材の入社意欲を高めることが採用マーケティングのミッションとなります。「認知」→「興味」→「比較・検討」→「決定」、各ファネルで押さえておきたいポイントを確認していきましょう。

認知

まずは、会社のことを知ってもらう必要があります。

求人情報から会社を知るという流れと、その逆の流れも考えられます。最終的には「採用」が目的でも、認知を課題とするときは、求職者(顕在層)に絞り込まないことがポイントとなります。ターゲットを明確にして、潜在層を含めたターゲットに合わせた情報発信をしていきましょう。

採用マーケティングは、一件一件の求人案件の視点ではなく、採用全体を視野範囲に据えて取り組むのが適切です。認知が得られない限り、求人広告や自社情報に価値はなく、採用も実現できません。

自社情報を効果的に伝えるには、採用専用のオウンドメディアの存在が貢献します。自社メディアまで誘導するきっかけとなる、記事や動画といったコンテンツの充実が欠かせないものとなります。たまたま読んだ記事やSNSで流れてきた動画を見て、企業の存在を知ったという経験はありませんか。これらが認知の入り口なのです。

その手段や情報の内容は、あくまで自社が求める人物像(ターゲット)を基準にします。手段としては、WebサイトやSNSでの情報発信やイベントの開催などが挙げられます。ターゲットがどのようなことに興味があるかは、職種から離れた部分からも探し出すことができます。転職意欲の有無に関わらず、ターゲット層が知りたいスキル情報や、業界の動向などが役に立つかもしれません。

興味

自社を知ってもらえたあとは、ある程度、転職への意欲がある人がターゲットになるフェーズです。応募というアクションを促すことがこのフェーズの目的になります。転職顕在層にアプローチしていくための施策を打ち出していきましょう。

自社を知ってもらったとき、興味を持った人はさらなる情報を欲します。発信するメッセージや意見に「何かいいな」「そうなんだよね」と共感し、この会社はどんな会社なんだろう?という気持ちを喚起できたあとの準備を整えておくことが大事です。共感のほか、驚きやメリットを感じてリサーチが続けられることもあるかもしれませんね。

たとえば、新卒であれば、会社説明への出展やイベントの開催も一手でしょう。SNSやオウンドメディアで、採用情報の動画発信をしていくのも有効です。

比較・検討

転職意欲のある顕在層は、ほとんどの場合、他の企業候補との比較・検討を行います。

比較・検討は、応募から選考、内定を出したときまで続きます。現在は、複数の企業の選考と同時進行で求職活動を進める可能性が高いです。このフェーズでは、「他社より優位に立ち続ける」ことが大切になってきます。

さらに詳しい情報や、欲しい情報を入手できる術を提供することで、比較・検討を支援しましょう。競合となる企業の発信や活動状況をリサーチし、自社の強みの差別化を図ることも大事です。選考プロセスの中で知り得た「自社のターゲットが重視する点」を前面に打ち出していきましょう。

たとえば、既存社員と直接交流できる機会を設けたり、入社後のイメージがリアルに描けるようなストーリーや動画などを届けたりするのも有効です。面接官は、選考というミッションだけでなく、入社意欲を喚起する役割を持ちます。面接という直接の接点で、何を伝えるべきかを明確にしておくことが大切です。

決定

いよいよ最終段階です。決定のフェーズでは、「入社したい」という意欲を高め、「選んでもらう」ことが目標となります。売り手市場の環境下では、この段階に至ってからも、辞退が発生する可能性があるため油断は禁物です。内定承諾を得てからも、しっかりフォローをする体制を整えておきましょう。

入社前には不安や疑問の解消するためのコミュニケーションを図ります。入社後の仕事に役立つような情報や資料、e-ラーニングツールなどを提供するとモチベーションを保つことに役立つでしょう。

まとめ

現代の採用市場において、採用活動を効率的にし、確実に欲しい人材を獲得するには、採用マーケティングがたいへん重要な役割を果たします。適切に回していくには工数が増えたり、一定の時間がかかったりしますが、採用オウンドメディアを運用していくことも、採用マーケティングを進める上での大きな助けになるはずです。

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